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AIエージェントの商品選択傾向を検証した論文を読みました。

こんにちは、VポイントマーケティングAIエンジニアの三浦諒一です。

AIエージェントが人に代わって商品を選択して購入まで済ませてくれる「エージェンティックコマース」について興味があって調べています。特に気になっているのが「AIエージェントがどういう基準で商品を選ぶんだろう?」というテーマです。

人が自分で商品を選ぶ場合は自分が欲しいと思ったり興味を持ったものや、その中でさらに価格が安かったり評価が高かったりするものを選ぶと思います。でももしAIエージェントが自分の代わりに商品を選ぶようになったら、同じような基準で判断するのでしょうか?

このテーマについて扱ったとても興味深い論文を最近読みました。今回は、その中でも特に私が面白いと感じた検証内容をご紹介します。

参照論文

Title:
What Is Your AI Agent Buying? Evaluation, Biases, Model Dependence, & Emerging Implications for Agentic E-Commerce.
Authors:
Amine Allouah, Omar Besbes, Josué D Figueroa, Yash Kanoria, Akshit Kumar.
Submitted On:
4 Aug 2025, last revised 17 Dec 2025.
arXiv URL:
https://arxiv.org/abs/2508.02630

論文の概要

ユーザーがAIエージェントに商品購入を任せると、どんな市場を形成するのかに焦点を当てた研究です。今のECサイトは人が利用することを想定した作りになっています。商品を売る側は、ECサイトを運営するプラットフォームのスポンサーとなることで人の目に留まりやすい場所に自社の商品を表示してもらったり、「おすすめ」のようなバッチやタグを付与することがありますが、これらはAIエージェントが商品を探すようになったら今と同じ販促効果を示すことができるのでしょうか?

また、AIエージェントのバックエンドで動くモデル(LLM)の学習プロセスを鑑みると、同じカテゴリー内の商品でもブランドの露出度によって選択の偏りが発生する可能性も考えられます。露出が高く、インターネット上に多数のデータが存在するブランドが優先され、ニッチなブランドが選択されなくなる。人が買い手であれば競争力があったブランドなのにAIエージェントが市場に参入すると全く選択されなくなってしまう可能性も考えられます。

モデルも単一ではありません。OpenAI、Anthropic、Googleなどのプロバイダが提供する異なるモデルをバックエンドに持つAIエージェントは、それぞれ果たして同じような商品選択傾向を見せるのでしょうか?また、同じプロバイダのモデルでもバージョンが変わるとその傾向は変わるのかもしれません。もし変わるとすると、ある日突然特定のブランドが選択されなくなったり、これまでは選択されやすい表示位置が選択されない場所に変化してしまうかもしれません。

この研究ではACES (Agentic e-CommercE Simulator)というサンドボックス環境でECサイトの簡易的な商品一覧画面を表示し、さまざまな条件下でAIエージェントの商品選択傾向を調べています。

ACES (Agentic e-CommercE Simulator)

この研究の中核に存在するのがACES (Agentic e-CommercE Simulator)というECサイトのサンドボックス環境です。ACESはLangChainとSeleniumで実装されたVLM(Vision Language Model:画像と言語を扱えるモデル)をバックエンドにもつブラウザ操作が可能なエージェントと、指定されたカテゴリの商品を2行4列のグリッド表示するモックのECサイトのWEBページで構成されます。

ACESでは商品の表示順や、価格や評価などの属性をコントロールすることが可能で、「Sponsored(スポンサー)」「Overall Pick(おすすめ)」「Scarcity(希少)」といったバッチを表示することもできます。商品の詳細表示画面などは実装されておらず、AIエージェントは一覧表示された画面キャプチャをプロンプトともに与えられ、商品を選択します。

ACESで取り扱われる商品カテゴリは「フィットネスウォッチ」「iPhone 16 Pro ケース」「マウスパッド」「オフィスランプ」「ホチキス」「トイレットペーパー」「歯磨き粉」「洗濯機」で、見てわかる通り高価格なものから日用品にまで渡ります。商品の基本的な情報はAmazonのものがベースとなっていて、メジャーなブランドからニッチなブランドまで含まれるようそれぞれのカテゴリで8つずつの商品が選択されています。

検証対象のモデル

検証対象となるモデルはOpenAIのGPT, AnthropicのClaude, そしてGoogleのGeminiです。さらにそれぞれのモデルの世代による違いを検証するため、それぞれ2025年8月時点のSOTAモデルと2025年12月のSOTAモデルが使用されています。

プロバイダ 2025/8 2025/12
OpenAI GPT-4.1 GPT-5.1
Anthropic Claude Sonnet 4 Claude Opus 4.5
Google Gemini 2.5 Flash Gemini 3.0 Preview

推論は最小限の設定で行います。これは実際のECサイトではコストや実行時間の制約があることが多いことから、より現実に近い条件で検証するためです。

AIエージェントの基本能力の測定

最初の検証では、そもそもAIエージェントが「指示に従った商品選択ができるのか」「基本的な経済合理性を持っているのか」が確認されています。

「指示に従った商品選択ができるのか」は「指定された予算内の商品を選ぶ」「指定された色の商品を選ぶ」「指定されたブランドの商品を選ぶ」ことができるのかを検証します。

「基本的な経済合理性を持っているのか」は商品の価格と評価以外は同条件の時、AIエージェントがより安価なもの、より高評価なものを選択するかを検証し、経済的に合理的な判断ができるかを評価します。

まず正しく指示に従うことができるか、という検証では2025/8から2025/12に推移することで失敗率が減少し、特に2025/12のモデルではほぼ失敗するケースはゼロだったようです。

合理性のテストも同様の傾向で、2025/8のモデルでは小さな割引や+0.1などの僅かな高評価を見逃すことが多かったようですが、2025/12のモデルでは失敗率がかなり下がったようです。

つまり現在のAIエージェントは単純な条件であれば正しい商品の選択ができる能力を持っていることがわかります。

モデルによるブランド選択の偏り傾向

では単純な比較では決めることができないような状態で、AIエージェントはどんな商品を選択する傾向があるのでしょうか?

この検証では各商品カテゴリで1,000回ずつの実験を行います。商品をランダムに入れ替えて、どのブランドの商品が選択されたのか回数を記録し、ブランドの選択確率を求めています。

この結果、一部のカテゴリでブランドの選択の偏りが見られ、一部のブランドについてはどのモデルからも選択されないということがわかりました。例えば2025/8モデルのブランド選択率を示す以下の図をみると「iPhone 16 Pro ケース」「オフィスランプ」「歯磨き粉」のカテゴリーで選択の偏りが大きいことが伺えます。

What Is Your AI Agent Buying? Evaluation, Biases, Model Dependence, & Emerging Implications for Agentic E-Commerce. , Figure 5

もう一つはモデルのバージョンが変わると選択されるブランドの傾向が変わってしまう、という結果です。以下は先ほどと同じカテゴリにおける2025/12のモデルのブランド選択率を表しています。例えば「iPhone 16 Pro ケース」を見ると、OpenAIのモデルは2025/8では「Mkeke」というブランドの選択率が高い一方、2025/12のモデルでは大幅に選択率が下がっています。

What Is Your AI Agent Buying? Evaluation, Biases, Model Dependence, & Emerging Implications for Agentic E-Commerce. , Figure 6

これは結構ショッキングな結果だと思います。AIエージェントが市場に参入すると、商品の売り手側はモデルの変更によってある日突然自分の商品が売れなくなってしまう可能性を示しています。プラットフォームや売り手はAIエージェントのECサイトにおける行動を常に監視する必要があるといえそうです。

プラットフォーム施策へのAIエージェントの反応

ECサイトではプラットフォームによって商品の表示位置を変えたり「おすすめ」バッチを付与したり割引するなどの施策が行われます。これらはAIエージェントにはどのような効果を与えるのでしょうか?

この論文では検証を次のように行なっています。まず各カテゴリごとに500回のシナリオを作り、それぞれのシナリオで以下の操作を実行します。

  • 8商品の表示位置をランダムに並べ替える
  • 各商品に Sponsoredタグをランダムに付ける
  • Overall Pickタグをランダムに付ける
  • Only X Remainingという在庫僅少タグをランダムに付ける
  • 価格をランダムに少し変える
  • 評価をランダムに少し変える
  • レビュー数をランダムに少し変える

商品の選択率に対するこれらの操作の効果の大きさ(係数)を測定します。

2025/8モデルの結果は次のようになっています。

What Is Your AI Agent Buying? Evaluation, Biases, Model Dependence, & Emerging Implications for Agentic E-Commerce. , Table 2

表示位置はどのモデルも1行目にある方が選択されやすいですが、列はモデルによって異なるようです。Sonnet 4では2列目、3列目の効果が高く、GPT-4.1は1列目、Gemini 2.5 Flashは3列目が効果が高いです。バッチ(タグ)はSponsoredタグをつけると全てのモデルで選択されにくくなる傾向が見られます。どのモデルもスポンサー表示を嫌う傾向があるようです。その一方Overall Pickタグによって選択されやすくなる傾向も見られます。価格が低いほど、評価が高いほど、レビュー数が多いほど選択されやすくなる傾向が全てのモデルで見られます。

この結果で特に、表示位置の効果がモデルによってばらつきがあることやスポンサー表示が悪影響になってしまう点は従来のECサイトのあり方を考える必要があることを示していると思います。

この傾向がモデルのバージョンによって変わるのかの検証も行われています。

What Is Your AI Agent Buying? Evaluation, Biases, Model Dependence, & Emerging Implications for Agentic E-Commerce. , Table 3

特にショッキングなのが表示位置の効果です。2025/8と2025/12でかなり傾向が変わってしまっています。その様子を表しているのが以下のヒートマップで、特にGPTは2025/8と2025/12で効果が高い表示位置が逆転してしまっています。継続的にAIエージェントの行動を監視しておかないと、知らない間に選択されやすい場所がいつの間にか選択されにくい場所になっている、といったことが起こり得ると思います。

What Is Your AI Agent Buying? Evaluation, Biases, Model Dependence, & Emerging Implications for Agentic E-Commerce. , Figure 7

売り手側の対策

では、買い手のAIエージェントの選択行動を売り手側で変化させることは可能なのでしょうか?この研究では、売り手がAIを使って動的に対象商品の商品説明文を書き換えることで選択率を改善することができるか検証を行なっています。

具体的な検証方法は、カテゴリの中からランダムに商品を1つ選び、商品一覧画面キャプチャと競合商品の販売データを与え対象商品の商品説明文の修正をAIで行わせます。変更を行った場合と行なっていない場合で選択率がどう変化するのかを検証します。

結果、改善が見られるカテゴリと見られないカテゴリが発生しています。特に面白いのが「オフィスランプ」のカテゴリで、AIで商品説明文を改善することで選択率を大幅に向上できています。

What Is Your AI Agent Buying? Evaluation, Biases, Model Dependence, & Emerging Implications for Agentic E-Commerce. , Figure 9

この理由について、論文では考察がされています。改善前の商品説明では「Office」という単語が文章の後ろの方に出現する傾向があり、一覧表示時に省かれてしまう傾向があるようです。ところが商品説明文の改善後は「Office」が先頭に近い箇所に出現するようになり、結果AIエージェントに選択されやすくなったのでは、という考察です。この結果も面白いな、と思います。プラットフォームが売り手に提供できるサービスとして、表示位置の最適化に代わって動的な商品説明文の最適化のようなものが成立するのかもしれません。

まとめ

今回は「What Is Your AI Agent Buying? Evaluation, Biases, Model Dependence, & Emerging Implications for Agentic E-Commerce.」というAIエージェントが市場に参入してきた時に起こりうることについて検証された論文の中から特に私が面白いな、と思ったところをご紹介させていただきました。個人的にはエージェンティックコマースの時代において、各プレイヤーの役割や最適化の方法が今とはだいぶ異なったものになりそう、と感じさせる内容でした。引き続きエージェンティックコマースに関する調査を進めていきたいと思います。